The Study of Bag End

若き時代のトールキンの声

1930年頃、トールキン教授はすでにオックスフォード大学の教授職に就いて数年経っていました。1929年初夏には末子のプリシラさんが生まれ、子供は4人に。この頃は、女性が働くことはまだ一般的ではありませんでしたから、家計を支えるのは父であるトールキンです。

立派な仕事に就いているのだから、そこから十分な収入が得られるように思うのですが、そうではなかったようです。オックスフォード大学の教授職はもともと上流階級の人が就くようなポストで、ほとんどはこの仕事から得る収入は大して必要がない人ばかりだったと聞きました。両親を早くに亡くしたトールキンに当てはありませんから、働かなくてはなりません。こうした追加の仕事である試験採点のアルバイト中に『ホビットの冒険』の冒頭が不意に生まれたのは有名なエピソードです。

これもそうしたお仕事の一つだったのではないかと思います。収録は、1929年7月とも1930年4月とも言われていますが、トールキン教授の36歳か37歳当時の声が収められた英語学習教材の音声を、大英図書館がアーカイブとして公開しています。お若い! これは、現存するものの中では最古ではないでしょうか。

この他にもトールキン教授のお声は残っています。『ホビットの冒険』のビルボとゴクリが出会う「暗闇でなぞなぞ問答」の章などを読んだり、映像付きでは上記にある『ホビットの冒険』の誕生エピソードを明かすものなど残っているんですが、そういうものはもっと後年で声に年齢や喫煙の影響が強く見られるようになった頃のものなんですよね。ですから、お若い頃の時の音源が残っていると知った時には感動したものです。

これは、ロンドンを拠点とする企業リンガフォンの英会話教材(Linguaphone Conversational Course)で、レコードが付属しています。先日、ちょうどブラックウェル書店の稀覯書部門(Blackwell’s Rare Books)で売り出していました。ちなみに、すでに販売済みのようです。ブラックウェルといえば、トールキン教授も利用していた書店です。このツイートでは年代が1940年頃と書かれているのですが、タイプミスと思われます。

ブラックウェルで取り扱っていた商品は、チェコ語及びスラブ語話者向けのガイドが入っていたようですが、いくつかのサイトを参照すると、ブックレットを変えて多言語対応できるようになっていたようです。

この教材は合計30編のレッスンの音源がレコードに収録されています。トールキン教授の他にもロンドン大学やケンブリッジ大学の教授や教員らによって録音されました。原稿を書いたのは、ロンドン大学の音声学の教授でその道のプロですね。トールキンが読んだのは、レッスン20の「たばこ屋にて(At the Tabacconist’s)」と、レッスン30の「無線(Wireless)」です。

トールキンがメインで話しているのは「たばこ屋にて」です。音声のはじめから話しているのがトールキンで、たばこ屋の店主を演じています。途中から入ってくる対話の相手は客を演じるアーサー・ロイド=ジェームズ教授です。トールキン教授のふだんの話し方は口ごもるようなところがあると聞いていますから、これはかなり意図的に明瞭にお読みになっているのだろうと思いますが、礼儀正しい店主を演じている姿が想像できて微笑ましいです。

もう一つの「無線」は、ロイド=ジェームズ教授がメインで話しています。途中から登場するのがトールキン教授です。ラジオが偉大な発明だと熱心に語っていますが、どこか心ここにあらずという印象なのは気のせいでしょうか?(笑)

内容物については、ジェイ・ジョンストン氏による開封動画がわかりやすいです。

参考