The Study of Bag End

ビルボやフロドの身長はどれくらいか

ビルボ・バギンズやフロド・バギンズの時代のホビット族の身長は、どれくらいだったかご存じですか?

指輪物語』を読むにあたって障壁とも言われがちの序章は、実際には資料の宝庫です。ここに、トールキン教授はホビット族の身長についてこんな風に書いています。

ホビットの背丈は、われわれの尺度でいえば2フィートから4フィート[60cmから120cm]だが、現在では3フィート[90cm]に達する者がほとんどいない。1

これは、ホビットの子供から大人になるまでの背丈の話ではなく、ホビットの成人した男性の平均身長と考えるのが適切です。けれど、これを読んでビルボやフロドの時代にも「ホビット族の身長は60cmから120cmだった」と考えるのは早計です。結論から申し上げると、ビルボやフロドの時代、第三紀の終わり頃のホビット族の身長の目安は90cmから107cmです。なぜこうなるのかをこれから見ていきましょう。

ホビットの身長について、トールキン教授の記述

トールキン教授は、上記で引用した文章に続けてこう書きました。

かれら[ホビット族]にいわせると、だんだんちびってきたのだそうで、昔は、はるかに背が高かった。2

ホビット族は、だんだん小さくなってきたんですね。これは、ホビットに限らずヌーメノールから中つ国へ移住してきた人間たちも同じようです。このことについては後述するとして、まずここで鍵となる言葉は「現在」と「昔」です。

「現在」は、トールキン教授がこの記述を書いている時点を指します。なぜなら『指輪物語』は、トールキン教授が書いた物語ではなく、トールキンが古い本を見つけてそれを英語に翻訳してまとめたという一風変わった体裁だからです。ですから、上記の引用文にある「現在」とは、教授がこの本を書いていた頃のことなんですね。

一方で「昔」はややあいまいです。ホビット族が人間によって「小さい人」と呼ばれる頃にまで遡るかもしれませんし、ビルボやフロドの時代のことかもしれません。

『指輪物語』を読んで、ここまでの記述を誤解した読者から手紙でも届いたのかもしれません。トールキン教授は『指輪物語』出版の10年以上後、1969年頃になって、ホビットの身長についてこう語り直しました。

後の時代の生き残りについての記述を含んでいるために、『指輪物語』の序章の[ホビットの体格についての]記述は、不必要にあいまいで込み入っている。『指輪物語』に関して要約すれば、ホビット庄のホビットで背丈が3フィート(90センチ)に達しないものは決していないし、4フィート(120センチ)を越えるものはほとんどいなかった。3

ここまでに書かれた情報をまとめると、この通り。

「現在」と「昔」のホビットの身長
「現在」のホビット
  • 60cm以上
  • 90cmを超える者はまれ
「昔」のホビット
  • 90cm以上
  • 120cmを超える者はまれ

ビルボもフロドも、少なくとも「現在」のホビットではありませんから、身長は90cm以上120cm未満であることがわかりました。

けど、トールキン先生! これではまだ30cmも幅があるではないですか! 人間ほど背丈のある種族なら30cmの身長差もわかります。日本にも180cmの人もいれば、150cmの大人もいますから。けれど、もともとホビットのような身長で30cmも違うとなると、身長差がありすぎはしませんか? もう少し絞られないのでしょうか。

ホビットの三支族の身長差

ホビット族は、さらに三支族にわかれていました。ハーフット族、ハロファイド族、ストゥア族です。『指輪物語』序章を参考に、ホビット族の身長や体格について整理するとこうなります。

『指輪物語』序文を参照した、ホビット三支族の比較
支族名 身長や体格
ハーフット族 体が小さく、背が低かった 茶色っぽい
ファロハイド族 背が高くすらっとしている 白い
ストゥア族 体つきがしっかりしていて、肩幅があり、手足が大きい 他の二支族の中間

ストゥア族の身長について言及されていませんね……。原文を見てみると、ハーフット族は‘shorter’と比較級で書かれていますから、背は一番低いのでしょう。そうなると、背の高い順からファロハイド族、ストゥア族、ハーフット族です。

ところで、フロドが旅に出る前、ガンダルフはブリー村で宿泊した後にアイゼンガルドへ向かいます。急いでいることから、そこの宿屋の亭主で友人のバーリマン・バタバーにフロド宛の手紙を託しました(映画では、手紙は省略されています)。会ったことのない人物の容姿を説明するために、現代のように写真を見せるわけにもいきませんから、フロドの容姿について言葉を用いて説明しました(描けるなら絵を描くでしょうが……)。ガンダルフによる説明はこの通り。

この者[フロド]は一部のホビットたちよりは背が高く、大部分のホビットたちより色が白い。4

具体的な身長は書かれていませんが、この記述はフロドがファロハイド族の特徴を持っていることを示しています。ホビットにしては背が高いほうということです。ビルボやフロドに時代には、この三支族は混ざり合っていただろうということは念頭に置いておくにしても、トゥック家やブランディバック家にはやはりファロハイド族の気質が強く見られたようです。ビルボはトゥック家の血をひいていましたし、フロドはトゥック家の血もブランディバック家の血もひいていました。

こういうわけで、ビルボもフロドも(そしてファンゴルンの森で「エント水」を飲む前のメリーとピピンも……)、身長は高いほうであるということはわかりました。けれど、もう少し具体的な身長が知りたいところですね。

なぜホビットは「小さい人」と呼ばれるのか

「小さい人」の原語は、‘halfling’。「小さい人」というより「半分サイズの人」というニュアンスのほうが近いですが、風情がないので「小さい人」でよしとするとして。ホビット族のほうではこの呼称を好んでいなかったようですが、誰がいったい名付けたのでしょう?

一部は『終わらざりし物語』にも収録されている1969年頃の原稿には、こうあります。以下の翻訳は、『終わらざりし物語』日本語訳をベースにさせていただき、原文が異なるところをアレンジしました。

拙訳
小さい人とはヌーメノール語に由来する名前である(シンダール語ではペリアンナスという)。この名は最初、第三紀11世紀のアルノールの統治者に知られるようになったハーフット族に与えられた……。後にファロハイド族とストゥア族にも使われた。したがって、ヌーメノール人に比べたときの背丈をさす名前であるのは明らかで、名付けられたときはほぼ正確であっただろう。ヌーメノール人は身長が高い民であった……。成人男性の多くは7フィート[213cm]の背丈があった。
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『指輪物語』追補編の年表、1050年の欄にある記述「ハーフット族のエリアドール移住とともに、ペリアンナスの名がはじめて記録中に現れる」6とつじつまがあいます。彼らは影から逃げて霧ふり山脈を超えて、東から西へ移動しはじめたんですね。ホビットの支族ごとにまとまり、ハーフット族、ファロハイド族、ストゥア族の順でエリアドールへやってきます。アルノールはこの頃、三王国に分裂してアルセダイン、ルーダウア、カルドランになっていましたが、アングマールの魔王が北にやってくるより前の時代でこうした記録を残す余裕もあったのでしょうね。

ところで、ヌーメノール人の体格はずば抜けています。213cm! 一説によると、アラゴルンのご先祖でありヌーメノール出身のエレンディルは、7フィート11インチ(241cm)の背丈があり「丈高きエレンディル」と呼ばれました。エレンディルはひとまず規格外としましょう。第三紀11世紀頃、最初にエリアドールに移住してきたハーフット族に対して「半分サイズ」を意味する名前が与えられました。ペリアンナスは複数形で、単数形になるとペリアンです。ピピンはミナス・ティリスの人たちに「ペリアンナスの公子」などと噂されていました。

さらに、物語時点での成人の男性のホビットの平均身長についてこう記しています。

拙訳
ハーフット族は3フィート6インチ[106.7cm]、ファロハイド族はこれよりすらりとしていてわずかに高く、ストゥア族はより横に広くがっしりしていて、[ファロハイドより]やや背が低かったのです。
7

213cmの半分は106.5cm。フィート法に直すと3フィート6インチ(106.7cm)となり、以下の記述とほぼ一致します! こうして見ていくと、いかにトールキン教授が考え抜いているかがわかります。

終わりに

『ホビットの冒険』がイギリスで刊行された翌年春、アメリカで同書を取り扱う出版社へ宛てた手紙の中でビルボの身長について3フィートから3フィート6インチ[90cmから106.7cm]と書きました。8『ホビットの冒険』を上梓した頃から、ホビットの背丈に関しては概ね設定が定まっていたということがわかります。ここまで見てきた後年の原稿とつじつまがあいますよね。

ビルボやフロドにはファロハイド族の血が混ざっていたことを思い出すと、彼らは平均よりは背が高かったのでしょう。けれど、おそらくは彼らもまただんだん背が低くなっている経過にあったのでしょう。ヌーメノール人も同じように身長が低くなっていっていましたから。中つ国にやってきたヌーメノール人の末裔がホビットを見つけた頃、彼らは7フィート(213cm)あったと前述しましたが、指輪戦争の時代には6フィート4インチ(193cm)まで低くなっていました。アラゴルンが6フィート6インチ(198cm)、ボロミアが6フィート4インチ(193cm)だったことを鑑みると、指輪戦争の頃にはすでにこの傾向にあったということが読み取れます。9

最後にビルボやフロドがどれくらいの身長だったのかの仮説を立てて、終わりにしたいと思います。

ヌーメノール人の身長213cmから193cmへの変化の割合を求めるとおよそ90.6%です。ハーフット族やファロハイド族に同じ変化率を当てはめた場合、以下のようになります。強引にも程がある仮説の立て方ですので、ご笑覧いただけますと幸いです。第三紀1000年代頃(11世紀頃)のホビット族の身長は、ハーフット族が3フィート6インチなので、やや大きいストゥア族は3フィート7インチと仮定、一番背が高いファロハイド族は3フィート8インチと仮定しました。無理やりではありますが、こうすると、ビルボの身長の想定と、ハーフット族、ファロハイド族の身長がだいたい合致します。

やや強引な仮説に基づく第三紀ドゥーネダインとホビット族の平均身長の変化
第三紀1000年代頃 ビルボやフロドの時代 変化率
ドゥーネダイン
(人間)
7フィート
213cm
6フィート4インチ
193cm
90.6%
ハーフット族
(ホビット族)
3フィート6インチ
107cm
3フィート2インチ
97cm(仮定)
90.6%
ファロハイド族
(ホビット族)
3フィート8インチ(仮定)
112cm
3フィート4インチ
101cm(仮定)
90.6%
メートル法は四捨五入して記載した

3フィート8インチという背丈は、『ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔』スペシャル・エクステンデッド・エディションで収録された追加シーンで、エント水を飲んで背が伸びたと思しきピピンを見て恨めしそうに口にする背丈と同じです(笑)。映画ではどちらの身長が高いかを言い争っていますが、メリーもピピンも3フィート6インチのようですが、きっとどんぐりの背比べみたいなものですよね。とはいえ、この表に基づくとやや大きめですが、トールキン教授が語ったビルボの背丈の想定、3フィート6インチ[90cmから106.7cm]の範囲です。

明確な結論は出ませんが、ビルボやフロドの時代のホビットの身長の目安は90cmから107cm。90cm未満になることはなく、60cmまで背が低くなるのはずーっと後のこと。長々と書いてしまいましたが、トールキン教授がどう書いていたかについて、理解を深めていただけたらうれしいです。

参考文献

  • J.R.R. Tolkien, The Lord of the Rings, “Prologue”, “Concerning Hobbits”
  • J・R・R・トールキン著, 瀬田貞二/田中明子訳 『新版 指輪物語』第1巻「旅の仲間」 評論社, 1992年
  • J・R・R・トールキン著, クリストファ・トールキン編, 山下なるや訳 『終わらざりし物語』下巻 河出書房, 2003年
  • Wayne G. Hammond, Christina Scull,The Lord of the Rings: A Reader’s Companion

出典

  1. ^J・R・R・トールキン著, 瀬田貞二、田中明子訳 『新版 指輪物語』第一巻 旅の仲間〈上〉, 評論社, 1992年, 6頁
  2. ^J・R・R・トールキン著, 瀬田貞二、田中明子訳 『新版 指輪物語』第一巻 旅の仲間〈上〉, 評論社, 1992年, 6頁
  3. ^J・R・R・トールキン著, クリストファ・トールキン編, 山下なるや訳 『終わらざりし物語』下巻 河出書房, 2003年, 30頁
  4. ^J・R・R・トールキン著, 瀬田貞二、田中明子訳 『新版 指輪物語』第一巻 旅の仲間〈上〉, 評論社, 1992年, 308頁
  5. ^Wayne G. Hammond and Christina Scull (eds), The Lord of the Rings: A Reader’s Companion, p. 4
  6. ^J・R・R・トールキン著, 瀬田貞二、田中明子訳 『新版 指輪物語』第七巻 追補編, 評論社, 1992年, 105頁
  7. ^Wayne G. Hammond and Christina Scull (eds), The Lord of the Rings: A Reader’s Companion, p. 4
  8. ^J.R.R. Tolkien; Humphrey Carpenter, Christopher Tolkien (eds.), The Letters of J.R.R. Tolkien, no. 27.
  9. ^Wayne G. Hammond and Christina Scull (eds), The Lord of the Rings: A Reader’s Companion, p. 229

※ 拙訳による引用文内の[ ]はすべてこの記事の筆者によるものです。
※ 和書本文中の漢数字は横書きにした時の読みやすさの観点から、漢数字から英数字に変換しました。