The Study of Bag End

ギル=ガラドの父親は誰か

ギル=ガラドは第一紀の末から第二紀のほとんどのあいだ、ノルドール族の上級王として君主の座にありました。

『シルマリルの物語』での彼の系図をおさらいすると、以下の図のように、フィンゴルフィン王家に属するフィンゴンの息子でした。ギル=ガラドは左下のほうにいます。

『シルマリルの物語』の系図より
ギル=ガラドをフィンゴンの息子とした場合の系図 *1

トールキン教授は『指輪物語』を書き終えた後、いよいよ『シルマリルの物語』の出版へ向けて動き始めます。物語群は『指輪物語』より前から書いていました。けれどご自身で『シルマリルの物語』の完結を見ぬまま、1973 年に亡くなりました。

クリストファ・トールキンさんの手で遺稿がまとめられ出版されたのは 1977 年のこと。その困難がどのようなものだったのかは編者の序文にも書かれていますね。

『シルマリルの物語』の後には、1980年に『終わらざりし物語』、1983年から1996年にかけて『中つ国の歴史』全12巻[未邦訳]が出版されました。こうして膨大な遺稿が世に出ました。

この中の『中つ国の歴史』最終巻である第12巻『 The Peoples of Middle-earth 』では、ギル=ガラドの父親についてトールキン教授の最終的な意向が説明されているんです。言葉で説明するより、系図をご覧いただいたほうが早いでしょう。

『The Peoples of Middle-earth』の記述を元にした系図
ギル=ガラドをオロドレスの息子とした場合の系図 *2

オロドレスがフィナルフィンの息子ではなく、一世代下がりアングロドの息子となります。これにより、オロドレスはフィンロド、アングロド、アイグノール、ガラドリエルとはきょうだい関係ではなくなります。さらに、ギル=ガラドはオロドレスの息子となり、フィンドゥイラスときょうだいになりました。

The Peoples of Middle-earth 』は 1996 年に出版された本ですから、海外ではすでにこの最終的な意向のほうが主流かもしれません。現に Tolkien Gateway ではギル=ガラドの親はオロドレスとシンダール族出身の女性(名前は不明)と記述されています。これについてクリストファさんはこう書いています。

これがこの問題に関する父の最後の意向であったことは間違いない。だが後期に根本的に変更されたこの構想は、既存の物語の中で言及されず、刊行済みの『シルマリルの物語』に組み込むことは明らかに不可能だった。それでもギル=ガラドの出自ははっきりしないままにしておいたほうが、はるかによかっただろう。

J.R.R. Tolkien, Christopher Tolkien (ed.), The Peoples of Middle-earth, “XI. The Shibboleth of Fëanor”, “The parentage of Gil-galad”, p. 351. [筆者が英語から日本語に翻訳した]

ギル=ガラドはもとをたどれば、フィンロドの息子とされていました。ですが、執筆の過程で『シルマリルの物語』で読者が知るようにフィンロドには子がいないことになり、そこからギル=ガラドの出自を変える必要が出てきたんですね。フィンロドには子がいないことになったのが 1951 年、ギル=ガラドをオドロレスの息子にすると書いたのが 1965 年でした。

なぜフィンゴンの息子からオロドレスの息子に変える必要があったのかは、 Tolkien Gateway にこのような考察がありました。王位の継承は、基本的には王の弟より王の息子へ優先して引き継がれます。それではフィンゴンの後にトゥルゴンが王なれない。それゆえ、ギル=ガラドはフィンゴンの息子でなくなったのではないか……ということです。*3 この考察は一理あるように思います。筆者はクウェンタ・シルマリッリオン関連の遺稿はまだ読んでいないものもあるので、クリストファさんがこう言及しているところがあるのかもしれません。

ともかく、以上がギル=ガラドの父親とされる人物が二人(ないし三人)いる理由でした。詳しくは参考文献をご参照ください。

参考文献

  1. J・R・R・トールキン著、クリストファ・トールキン編『新版 シルマリルの物語』、田中明子訳、評論社.
  2. J.R.R. Tolkien, Christopher Tolkien (ed.), The Peoples of Middle-earth, “XI. The Shibboleth of Fëanor”, “The parentage of Gil-galad”, pp. 349-51.
  3. Gil-galad – Tolkien Gateway, last edited on 22 September 2021.

※ 本記事では『指輪物語』最新訳の表記に従い、トゥアゴンをトゥルゴン、シルマリルリオンをシルマリッリオンとしました。