The Study of Bag End

ジョン・ハウさんとアラン・リーさんの「イメージ画集」の日本語訳について

2020年に原書房から刊行されたジョン・ハウさんとアラン・リーさんの「イメージ画集」の翻訳の課題について取り上げます。

該当する書籍は以下の三冊です。いずれも初版を確認しました。

日本語版は、原書の出版からおよそ1年半ほど後に発売されました。原書房から、山本史郎さんの翻訳によります。ジョン・ハウさんとアラン・リーさんの画集を日本語で届けてくださったことを、とてもうれしく思います。いずれの書籍も同年のうちに発売されました。日本語版では、この三冊をシリーズのように展開したと認識しています。

この三作品を通じて、固有名詞の訳語を確認した限りでも翻訳に多々課題があると感じました。訳語の不統一だけでなく、明らかに誤記と見受けられるものもあり、読者に読むことの負担を強いるものだと思います。刊行の翌年となった現時点で出版社から正誤表は発行されていないようです、他の書籍では正誤表が発行されているのですが……。

例えば、ジョン・ハウさんが「アングバンド」と書いたところを「アングマール」と表記しています。アングバンドとアングマールは全く異なる地名です。それに「トルーキン」(書籍名の副題にはトールキンとある)や『ロード・オブ・ザ・キング』はちょっとひどいですね。

他にも変換ミスと思しきものや、表記の不統一が見られました。山本さんが『ホビット』の翻訳で使用した固有名詞があるにも関わらず、瀬田貞二さん、田中明子さんが使用した固有名詞の訳語が混在している点では、一人の訳者が翻訳した品質とは思えませんでした。それだけでなく、山本さんの『ホビット』訳の読者に対しての誠意も感じられないように思います。せっかくのジョン・ハウさんとアラン・リーさんの書籍に対してこうしたことを書かなくてはならないのは残念です。

ここでは読者が特に困ったり、気になってしまうと思われる部分についてのみ言及するもので、網羅はしていません。なお、ここで言及する山本史郎さん翻訳の『ホビット』は、2012年の『新版 ホビット 第四版・注釈版』を指します。

ミドルアース―トールキンとジョン・ハウのファンタジー・イメージ画集

カギカッコ内は以下の書籍からの引用です。後ろに該当するページを記載します。
ジョン・ハウ著、山本史郎訳『ミドルアース―トールキンとジョン・ハウのファンタジー・イメージ画集』、原書房、2020年

  • トルーキン(6ページ)
    Tolkien’ のカナ表記はこれまでに他書籍で一部「トルーキン」と表記されてきました。ですが、この画集の場合は副題に「トールキン」と記載があることから、これは誤りと思われます。
  • 『ロード・オブ・ザ・キング』(17ページ)
    言うまでもなく『ロード・オブ・ザ・リング』の誤りと思われます。
  • ヴィクトリ朝(21ページ)
    言うまでもなくヴィクトリア朝の誤りと思われます。
  • 水の辺村の10人は(23ページ)
    原文は ‘the inhabitants of Bywater’ です。同書の翻訳者のこれまでの訳を選ぶなら「みぎわ丁の住人は」となるべきではないかと思います。なぜかと言えば、山本さんは『ホビット』のなかで、‘Bywater’ を「みぎわ丁」と翻訳しました。「水の辺村」は瀬田貞二さんが使用したものであり、同書の他ページでは「みぎわ」の表記も見つかり、訳語が混在しています。また、‘inhabitant’ の訳語「十人」は、同じく「じゅうにん」と読む、「住人」を意図したのではないかと思います。
  • バックランド(38ページ)
    『指輪物語』では「バック郷」と表記されています。トールキンは、「Buckland」の ‘buck’ の要素については翻訳しないよう指示しました。‘land’ については指示がないため、翻訳すべき箇所ではないかと思います。
    参照:『指輪物語:読者のための手引き書』 767ページ参照
  • ヤールワイン・ベ=アダール(45ページ)
    トム・ボンバディルの別名です。表記は原文で Iarwain Ben-adar ですから、『指輪物語』と同様に「ヤールワイン・ベン=アダール」(新版)または「ヤルワイン・ベン=アダル」(最新版)とするべきです。
  • パランテイア(56ページ)
    『指輪物語』や映画『ロード・オブ・ザ・リング』では、「パランティア」とされたものです。同書の中で「パランテイア」と「パランティアの石」(186〜7ページ)の二種類の表記が見つかります。
  • アンバー(57ページ)
    『指輪物語』の読者は「ウンバール」として慣れ親しんでいる地名です。オーディオブックを聞けば、「アンバー」と聞こえることもありますが、「アンバー」を「ウンバール」と結びつけるのはなかなか難しいです。
  • エフェル・ドゥーアス(58ページ)
    「エフェル・ドゥーアス」と「エフェル・ドゥアス」(85ページ)の表記が混在しています。こうした長音にするかどうかの表記の不統一は「ヌメノール」と「ヌーメノール」、「カザド=ドゥム」と「カザド=ドゥーム」などにも見られました。
  • モルゴース(63ページ他)
    『シルマリルの物語』では「モルゴス」とされています。原文では ‘Morgoth’ なので、長音は必要でしょうか?
  • スロール(93ページ)
    『ホビット』では「トロール」と表記されています。
  • ヘルム峡(107ページ)
    直下の文章では「ヘルム峡谷」とされています。最後の一文字が削れてしまった、データ作成ミスのように見受けられます。
  • アカラルベース(183, 185ページ)
    『シルマリルの物語』では ‘Akallabêth’ であることから「アカルラベース」と翻訳されています。

※ 67ページ「オイロロッセ」は原文が「Oilolossë」ですが、「オイオロッセ」のことだと思います。

ロード・オブ・ザ・リング:トールキンとアラン・リーのファンタジー・イメージ画集

カギカッコ内は以下の書籍からの引用です。後ろに該当するページを記載します。
アラン・リー著、山本史郎訳『ロード・オブ・ザ・リング:トールキンとアラン・リーのファンタジー・イメージ画集』、原書房、2020年

準備中

ホビット:トールキンとアラン・リーのファンタジー・イメージ画集

カギカッコ内は以下の書籍からの引用です。後ろに該当するページを記載します。
アラン・リー著、山本史郎訳『ホビット:トールキンとアラン・リーのファンタジー・イメージ画集』、原書房、2020年

準備中