The Study of Bag End

挿絵付き『The Silmarillion』新装版 2021年3月18日発売

イギリスの HarperCollins から、テド・ネイスミスさんの挿絵付き『The Silmarillion』新装版がに発売予定です。さらに函入りの豪華版が同日発売です。

ネイスミスさんの挿絵付き『The Silmarillion』が最初に刊行されたのは1998年で、2004年には第二版が出ていました。この度刊行される新装版は、数点の新作を合わせてフルカラーイラストが約50点収録されるそうです。私は第二版を持っていますが、ネイスミスさんのイラストはどれも素晴らしいです。

ネイスミス画伯といえば、アラン・リーさん、ジョン・ハウさんとともに2020年10月に刊行された『Unfinished Tales』(終わらざりし物語)の挿絵付き版が刊行されたばかり。2021年のトールキン公式カレンダーにもなりました。

出版社による紹介(拙訳付き)

ふだん、出版社による紹介は書籍プロモーション用のテキストを翻訳して掲載していますが、今回は出版社運営のトールキン公式Facebookページのほうがよりご担当の方の思いの伝わるものだったため、こちらをご紹介したいと思います。これは2020年11月6日に投稿されました。

拙訳
ヌーメノールの没落を描いたテド・ネイスミスの印象的な絵が目をひく、『シルマリルの物語』の新しい挿絵入りエディションの表紙をお披露目できて、うれしく思います。この新版は2021年3月のトールキン読書の日(Tolkien Reading Day)に合わせて刊行され、はじめてお披露目される新作の絵は目玉となるでしょう。予約はこちらから https://smarturl.it/TheSilmarillionHB

最初、1977年に刊行された『シルマリルの物語』は、クリストファ・トールキンが初版の表紙へ「J・R・R・トールキンの想像力豊かな執筆の中心的な蓄積であり、彼と共に成長したことから生前に出版できなかった作品である。その起源は60年前までさかのぼる…」と書いたように、代表作です。

今考えると信じられないことですが、この60年という期間はトールキンがランカシャー・フュージリア隊で見事に仕えた、第一次世界大戦の戦場の泥と塹壕と大虐殺までさかのぼります。彼はソンム攻勢に参加しましたが、1916年11月8日に傷病兵として送還されました。病院で療養中に執筆を開始し、鉛筆でぼろぼろの教科書に物語を急いで書きこみました。彼が経験した暗闇と恐怖から、光と美しさを備えた『失われた物語の書』が生まれ、『シルマリルの物語』へと発展する初期の神話の形が生まれました。

クリストファ・トールキンは、彼の父が戦闘から解放されてからわずか6年後の1924年11月に生まれました。彼が世界に与えてきた独特で比類がない貢献を改めて振り返るのに、この感謝祭とクリストファの誕生の今月がふさわしいでしょう。

クリストファの生涯にとって、彼の父の伝説体系(レジェンダリウム)は彼の世界の重要な部分でした。彼自身こう語りました。「奇妙に思われるかもしれませんが、私は父が作った世界の中で育ちました。私にとって、『シルマリルの物語』の都のほうがバビロンより現実的です」。 トールキン本人が彼のライフワークである作品を出版できるように結ぶことはできないと悟ったため、彼はクリストファとどのように完結させるかを詳細に話し合いました。クリストファは父の希望に忠実に従い、父の死からわずか4年後の1977年に『シルマリルの物語』を出版しました。世界的なベストセラーとなり、「非凡な美の創造」(ワシントン・ポスト紙)、「時に真の神話の偉大さにまで昇華する」(フィナンシャル・タイムズ紙)と称賛されました。

この画期的な文学的業績は、多くの人にとっては人生の集大成となるでしょうが、クリストファにとっては始まりに過ぎませんでした。『ベレンとルーシエン』の彼の序文の中でこう述べました。「私はその後、続く数年をこの作品の初期の歴史を調べることに費やしました。[中略]この仕事をするのは、一つにはきちんと整理したいという私自身の満足のためであり、さらに父の構想全体が実際にどのように初期の物語の原点から進化していったかを私が知りたいからです…」(※)。 この言葉の中には、父親の文学作品に尽きることのない喜びを見いだした男の非凡で素晴らしい本質があります。研究の厳密さを最上級に要求する学者であると同時に、ヴァリノールと中つ国の物語を旅することに果てしない喜びを見いだしたロマンチストでもありました。

彼はその後に続く40年間、静かで学問的な試みを続け、彼の記念碑的な12巻からなる(シルマリルの物語の壮大な歴史から発展した)歴史、彼の文学的業績の絶頂となる三冊の本『フーリンの子どもたち』、『ベレンとルーシエン』、『ゴンドリンの陥落』に至るまで、中つ国への理解を深める多くの作品を発表しました。

彼は『ゴンドリンの陥落』の序文で次のように書きました。「約40年の歳月を経た今、私自身の仕事を振り返ってみると、私の根本的な目的は、少なくとも部分的には『シルマリルの物語』の性質と、『指輪物語』に関連におけるその重要な存在をより際立たせようとすることだったと考えています。」

『シルマリルの物語』の新版が出版されることで、トールキン親子の文学的なすばらしい才能に改めて感動する機会を得ることになります。J・R・R・トールキンは、戦争の暗闇から『シルマリルの物語』という輝かしい宝石を生み出しました。そして、クリストファ・トールキンのたゆみない献身のおかげで、これらの物語やさらに多くの物語は、永遠に私たちの想像力を照らすことでしょう。

※ 投稿の原文は「彼は」から始まりますが、クリストファさん自身の言葉のため「私は」に直した上で、引用した文章が簡略に伝わるようやや調整された部分に従って翻訳しました。訳文は概ね次から引用いたしました。
J・R・R・トールキン著、クリストファ・トールキン編、沼田香穂里訳『ベレンとルーシエン』, 評論社, 2020年, 5頁

文中にあるトールキン読書の日(Tolkien Reading Day)は、イギリスのトールキン協会が主催するイベント(link)。このイベントは、毎年3月25日に行われています。この日が何の日なのか『指輪物語』を読んだ人なら誰でもご存じでしょう。2021年のトールキン読書の日のテーマは、「希望と勇気(Hope and Courage)」でトールキン作品なら何を読んでも(聴いても)自由です。

話は『シルマリルの物語』に戻りますが、アマゾンのドラマ版『指輪物語(ロード・オブ・ザ・リング)』は当初2021年の配信スタートを目標としていたようですし(時期は現在も不明)、第二紀がドラマの題材となるようですから、ここに収録されている「アカルラベース」を読みたい人は今後さらに増えていくことでしょう。それに、第二紀の前に何があったのかを第一紀までさかのぼりたい人も増えると私でさえ期待していますから、こうした美しい新版が発売されるのはうれしいですね。

The Silmarillion

J.R.R. Tolkien
Christopher Tolkien
Ted Nasmith

発売日
出版社
HarperCollins Publishers
ISBN
0008433941 / 9780008433949
フォーマット
ハードカバー
ページ数
480
言語
英語
定価
£30
公式情報
The Silmarillion: Illustrated Deluxe edition – HarperCollins Publishers UK