The Study of Bag End

起用されなかった作曲家によるデモ音源

2019年の中頃に、ドラマ版『指輪物語』のショーランナーを務める J・D・ペインさんとパトリック・マッケイさんのもとへ、ドラマのためのデモ音源が届きました。これは二人の仕事仲間であるアメリカの作曲家ブライアン・ラルストンさんによる音源で、ドラマの作曲家としての起用を検討してもらうために送られたのでした。最終的に彼は起用されませんでしたが、のちに音源をYouTubeで公開しました。

使われることはなかったとはいえ、トールキンの中つ国作品の音楽として聴いてみるのは楽しい体験になると思います。映画『ロード・オブ・ザ・リング』や『ホビット』の観客が親しみを持てるようにするために、ラルストンさんはハワード・ショアさんのサウンドトラックの世界観から外れないような音楽を試みたということ。音楽の端々にどことなく影響が感じられるような気がしませんか?

曲名は以下の通り。

  1. The Second Age (第二紀)
  2. The Children of Iluvatar (イルーヴァタールの子ら)
  3. Írima ye Númenor
  4. The Last Alliance (最後の同盟)

ラルストンさんがこのデモ音源を作曲するにあたって、ドラマ版『指輪物語』の内部情報を入手したのか、ご自身で調査して設定したのかは不明です。ですが、子供の頃からの読者で、トールキン作品の世界はよく知っているんだと語っていますし、ドラマ版『指輪物語』に対するアマゾン・スタジオの秘密主義ぶりを見れば、後者のほうが状況としては近いのではないかと想像します。

2019年の中頃というと、ドラマのためのクリエイティヴ・チームのメンバーが発表された頃。同じ頃、トールキン研究者トム・シッピー先生がインタビューを受けていますが、チームの一員だったにも関わらず内部の状況を「よく知らない」と強調なさっていたことが思い出されます。

ですから、ここに「最後の同盟」という題名の楽曲があることは、ドラマでエルフと人間の最後の同盟の戦いを描くことを意味するものではないかも(いずれかのシーズンで描かれる可能性は非常に高いと予想しますが……)。

先の動画は、音楽のみに的を絞り再編集されたものですが、以下の動画がアマゾン・スタジオに送られたものと思われます。楽曲は共通ですが、冒頭にラルストンさんの解説が入ります。

ややマニアックな話になりますが、興味深いのはこちらの9分35秒からはじまる(位置はあわせています)「Írima ye Númenor」。この「フィーリエルの歌」と題され掲載された詩は、未完の『中つ国の歴史』シリーズ第5巻『失われた道』amazonから部分的に引用されています(70頁)。題名はありませんが、歌い手の名前をとって通例「フィーリエルの歌」と呼ばれるものです。フィーリエルはヌーメノール作品の初期のバージョンにのみ登場するヌーメノールの女性です。

この『失われた道』はヌーメノール作品の初期バージョンであり、後期の『アカルラベース』とは異なる物語ですが、共通項も多いです。後期作品を「正典」とするならば『失われた道』が原作にはならないにしろ、ドラマ版『指輪物語』で後期のヌーメノールの物語を作り上げるインスピレーションにはなり得るかもしれないですね。

『失われた道』は19927月号の「ユリイカ」に赤井敏夫先生による邦訳が掲載されています。アマゾンが一部ライセンスを得たとうわさのある『シルマリルの物語』や『終わらざりし物語』の予習/復習を終えたら、こちらを読んでみるのもおもしろいかもしれませんね。

わたしは数年前に古書を安価で入手できましたが、アマゾンを今見ると高騰していますね。1992年7月号の「ユリイカ」、特集のタイトルは「トールキン生誕百年―モダン・ファンタジーの王国」ですからご興味があれば探してみてください。

この動画はいつも話題を提供してくださるFellowship of Fansが紹介してくださったものです。

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