The Study of Bag End

「私はぬかりなく地図からはじめた、」とは?

アマゾン・プライムのテレビドラマ版『ロード・オブ・ザ・リング』が、SNSアカウントで最初に投稿した内容は I wisely started with a map(拙訳:「私はぬかりなく地図からはじめた」)というトールキンの言葉の引用でした。私はトールキン教授がどこでこの言葉を使ったのか知らなかったので、探してみました。

どこに書いているのか

ありがたいことに、こういう場合に引用元を探し当てることは簡単な時代になりました。Kindleで検索すると、トールキンの書簡集『The Letters of J.R.R. Tolkien』の144番に記載されている手紙の中にありました。ナオミ・ミッチソン氏からの手紙への返信として書かれたもののなかにあります。ミッチソン氏はスコットランドの作家で、この144番の手紙以外にも、トールキンがミッチソン氏へ宛てた手紙が収録されています。

いつ書いたのか

この手紙の日付は1954年4月25日。『指輪物語』第一巻の出版は同じ年の7月のことですが、「二つの塔」までの校正刷りの原稿を読んだミッチソン氏がトールキンに質問の嵐を浴びせたようで、手紙は質問に対する回答になっています。今回引用された一文はやはり地図に関する話題の中で出てくるのですが、西方語(共通語)やエルフ語などの言語、エント女に関する話題などその他にも興味深い話題が綴られています。なかなか長いお手紙です(せっせと文通をするホビットの姿ここにあり)。

ミッチソン氏からの手紙の内容は推測するしかありませんが、彼女は地図なしで物語を読んだようで、彼女からの手紙にはおそらく地理や地形に関する質問が数多くあったのではないかと思います。地図に関する話題は、彼女が地図なく読んだことに対してのお詫びからはじまります。そして、この引用には続きがあり、これで一文です。

I wisely started with a map, and made the story fit (generally with meticulous care for distances).

拙訳
私はぬかりなく地図からはじめ、物語が適切になるようにしました(たいてい、距離に細心の注意を払うためです)。
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この言葉を証明するような、几帳面にひかれた方眼の中に描かれた中つ国の地図の試作が残されていて、トールキン展の図録や『指輪』の草稿集第二巻『アイゼンガルドの裏切り(The Treason of Isengard)』などの中で見ることができます。トールキンのこの取り組みはいかに物語にリアリティを与えるか、という彼の姿勢の現れですね。この他、カレンダー、月の満ち欠けにも注意を払っていたことは有名なエピソードです。

アマゾンがこの言葉を選んだのは、ちょうど公開するものが地図だったからかもしれませんし、トールキンの教訓の通りにしているということを表しているのかもしれません。とにかく、少しずつ地図が更新されていくのはわくわくしますね。

Footnotes

  1. ^J.R.R. Tolkien; Humphrey Carpenter, Christopher Tolkien (eds.), The Letters of J.R.R. Tolkien, Letter 144, (dated 25 April 1954)

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