The Study of Bag End

『或る伝記』読み返し

霧のオックスフォード

このたびイングランドへおもむく機会に恵まれ、トールキン教授のゆかりの地を訪問することにしました。その下準備として『或る伝記』の関連する箇所を部分的に読んではいたのですが、イングランドから帰国する飛行機の中でやっと通読をはじめて、読み終わりました。

ゆかりの地を訪問したあとで読む『或る伝記』は格別でした(事前に読んでおくことができたら、もっとよかったのですが)。
特に何度も転居を繰り返したオックスフォードがそうです。トールキンがC.S.ルイスと並んで、ブロード通りやハイ・ストリートを深夜歩いていた光景が、ノースムーア通りから自転車で中心部に通う様子が、カヴァード・マーケットで注文し忘れたソーセージを買い求めに行く姿が、容易に想像できるようになりました。
もちろん、トールキン教授がそこで生活していたのは何十年も前で、街の姿も、道行く人の装いや雰囲気も、当時のものでないことは承知していますが。

何度か長距離の移動もありました。イングランドのミッドランズエリアは丘陵地帯が多く、鉄道やバスで少し走るとすぐに田園風景が広がります。その光景があまりにも中つ国的で車窓は見ていて飽きません。

バーミンガムからチェルトナムへ向かった時の車窓
バーミンガムからチェルトナムへ向かった時の車窓

新学期がはじまるのはちょうど10月で、朝に日が昇るのは8時頃のことでした。そして霧のぼんやりした朝を迎えることも多かったです。トールキン教授は若いうちから朝が苦手だったと綴られていますが、こういった環境で生活していると朝日で目覚めにくいかもしれないなぁと同情しました。

うら若き頃にこの本を読んだ時には、エディス夫人とのロマンスの美しさに涙したものです。ドラマチックでしたから、ニコラス・ホルトとリリー・コリンズが演じる伝記映画を見れるのが楽しみです。初読からずいぶん経ち、自身の境遇も変わったためか、結婚生活の日常と愛情、ときに激情もあること、晩年の経過に涙するようになりました。

完璧な世界を作り上げた奇才と呼ばれますが、その影にある悲嘆、謙虚な姿勢と努力、好奇心のきらめきがあったことは胸に刻んでおきたいものです。

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