The Study of Bag End

メリーとピピンの「ゆきて帰りし物語」とサムの物語の重要性

指輪物語』は『ホビットの冒険』の続編として執筆がはじまりました。再び児童向けの、めでたしめでたしで終わるような物語が出版社(と読者)から求められていました。主人公は当然、ビルボのようなコミカルな気質を持っていましたし、ホビットたちもみんなそんな調子でした。

『指輪物語』の執筆が進むに連れて物語は否応なしに暗さを増し、主人公にはそのコミカルさがそぐわなくなってきます。ホビット庄の中でこそフロド・バギンズもコミカルな気質を垣間見せますが(きのこを独り占めしようとするフロドの旦那が大好きです)、主としてそのコミカルさを受け継いだのはメリーピピンでした。そうした彼らでさえ、指輪戦争の過程でホビットらしい快活さを保ちながらも頼りがいのあるキャラクターに成長していきます。そして死ぬまで幸せに中つ国で暮らしました。

彼らはビルボから単純にコミカルさを受け継いだだけでなく、主人公フロドが「ホビットの冒険の続編」の主人公として果たせなかっためでたしめでたしの「ゆきて帰りし」物語を描く役割と英雄性を、メリーとピピンが代わりに担ったのだと思います。

そしてサム・ギャムジーです。サムはホビット庄への帰還後、長らく町長を務め、好きな女性と結婚して、たくさんの子供に囲まれて暮らしました。中つ国を守るために力を尽くしたフロドにも、どういう形であれ幸せに暮らして余生を全うしてもらいたい。多くの読者がそう思ったのではないでしょうか。

ですが、フロドはそうすることはできませんでした。フロドは有形無形問わずすべてをサムに託して西方へ去りました。サムも十分に生き抜いた時にフロドの後に続くことになります。でも、それまでフロドに果たして欲しいと読者が切に願うような役割を、サムが十分に果たしてくれることを知り、喪失感の慰めとなります。

トールキン教授が『指輪物語』のテーマを死と不死にしている1のなら、私はここに一つの教授の解釈の一つが語られているのではないかと思います。

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Footnotes

  1. ^J.R.R.Tolkien, Humphrey Carpenter(ed.), Christopher Tolkien(ed.), The Letters of J.R.R.Tolkien, HarperCollionsPublishers 2006, Letter 211

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