The Study of Bag End

『図説 指輪の文化史』指輪物語の記述に関するエラー指摘

『図説 指輪の文化史』は、指輪に関する史実を広範囲に渡って知ることができる一冊です。しかしながら、第6章にある一節「トールキンの『指輪物語』と指輪の魔力」(85〜86ページ)は、トールキンファンとして誤認識が気になりました。これからトールキン作品に触れる読者が混乱しないようにする目的でエラーを指摘します。貶める意図はないことをご理解ください。また、私のほうでトールキンについて理解が及んでいない箇所がありましたら、ご指摘いただけますと助かります。

該当する書籍
浜本隆志(著)『図説 指輪の文化史』、河出書房新社、2018年
※2018年初版本を確認しました。
※引用部分を太字で、該当ページをその後ろに記述しました。

  1. 『指輪物語』(1936/37〜49、発行年1954〜1955)(85ページ)
    トールキンは1937年に出版された『ホビットの冒険』が好評を博したことから「ホビットの続編」の執筆を開始しました。それがのちに『指輪物語』となります。1936という年号が執筆の開始時期を表すものであれば誤りです。1
  2. 中つ国(東方と西方の中間にある架空の地)(85ページ)
    トールキンは中つ国(原語:ミドルアース)を「人間の住むところ」だと説明しました。2 西方(ヴァリノール)については明確に記載していますが、西方と東方の中間の土地という意味で用いているという記載は見たことがありません。
  3. 冥界の王サウロンが…(85ページ)
    サウロンは邦訳で「冥王」と訳出されますが、原語は「the Dark Lord」で、「冥界の王」を意味するものではありません。サウロンの国モルドールは中つ国にありました。3
  4. サウロンが世界を支配するために二十の指輪をつくらせたことが記される(85ページ)
    サウロンの指輪は、他の者に作らせたのではなく、サウロン自身が制作しました。エルフの指輪は、エルフがサウロンの関知しないところで密かにつくったものであり、サウロンがつくらせたものではありません。4
  5. これらの指輪群は(中略)所有者に超能力をもたらすが、しかし持っている人をむしばんでいく。(85ページ)
    一つの指輪に関してガンダルフの説明によれば、所有者にふさわしい力量しかもたらしません。5 ゆえに誰にでも超能力をもたらすとは言い切れません。
  6. イシルドゥアがその指輪を奪ったが、わが物にしたので、指輪の呪いで滅びてしまう。(85ページ)
    イシルドゥアの指から指輪が抜けた理由がなんであるかは説明されていません。6
  7. 指輪は小人のホビット族のフロド(主人公)から、魔法使いガンダルフの手にわたるが(85ページ)
    一つの指輪はガンダルフの手に渡ることはありません。明確に受け取ることを拒否しています。7
  8. その火山へゆく旅のなかで、指輪をめぐる戦いが繰り広げられ、その魔力にとりつかれた者たちの壮絶な指輪戦争の結果(後略)(86ページ)
    合戦という意味で「戦い」と表記しているのであれば、指輪の行くところ小規模の戦いはついてまわりますが、その戦いすべてが指輪をめぐるわけではありません。また、大きな合戦が行われたヘルム峡谷の戦いやペレンノール野の戦いは直接的に指輪をかけて戦ったものではありません。

Footnotes

  1. ^ハンフリー・カーペンター(著) 菅原啓州(訳) 『J.R.R.トールキン ―或る伝記―』 評論社 1982年、215・217・220ページ
  2. ^J.R.R.Tolkien; Humphrey Carpenter, Christpher Tolkien(ed.), The Letters of J.R.R. Tolkien, No.151
  3. ^J.R.R.Tolkien, The Lord of the Rings, The Fellowship of the Ring, “The Shadow of the Past”,”Maps”
  4. ^J.R.R.トールキン(著) 瀬田貞二、田中明子(訳) 『〈新版〉指輪物語 旅の仲間(下)』 評論社 1992年、54ページ
  5. ^J.R.R.トールキン(著) 瀬田貞二、田中明子(訳) 『〈新版〉指輪物語 旅の仲間(上)』 評論社 1992年、92ページ
  6. ^J.R.R.トールキン(著) 瀬田貞二、田中明子(訳) 『〈新版〉指輪物語 旅の仲間(上)』 評論社 1992年、90・97ページ
  7. ^J.R.R.トールキン(著) 瀬田貞二、田中明子(訳) 『〈新版〉指輪物語 旅の仲間(上)』 評論社 1992年、107〜108ページ

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