The Study of Bag End

中つ国への手引き ―トールキン作品を読む・観る―

さまざまな読書の大海原を泳ぎ着いて、または映画シリーズを見て、もしくはおすすめを受けて…。

これから『ホビットの冒険』や『指輪物語』に代表されるJ・R・R・トールキンの中つ国(ミドルアース)の物語を「読んでみよう」と思われるかたに向けて、トールキンの世界を楽しむための手引き、読む順番の案内を、僭越ではありますが、わたしなりに書いてみようと思います。

記事のもくじ

  1. はじめに―映画を観ようと思っているかたへ
  2. 心がまえ―気楽にはじめよう!
  3. まずはじめに 〜ホビット、指輪、…シルマリル?
  4. 第三紀の出来事をもっと、あるいは、気の遠くなるくらい過去へ
  5. 映像を楽しむ
  6. おわりに
  7. よくある質問

はじめに―映画を観ようと思っているかたへ

このページを読んでいるのも何かのご縁と思って、先に原作を読んでみませんか?

中つ国への第一歩は「まずはじめに原作を読み、映画を観る」。私のおすすめの順番は、これに尽きます。

こうおすすめする理由は、私の後悔があるからです。

そう言われても、映画を先に観たいので見る順番が知りたいという方は「5. 映像を楽しむ」にお進みください。

『ロード・オブ・ザ・リング』第二部の映画を観終えるまで、若かりし私は何でも「映画を見た後に原作を読む」というスタンスでした。第一部の映画を観たら、第一部の原作を読み、第二部の映画を観たら、第二部の原作を読む、ということをやっていたのです。

ところが原作の第二部は、映画の第二部よりも物語が先へ進みます。その頃には物語に夢中で、続きが気になって仕方がなくなっていました。気がつくと、原作を終わりまで進んで読み終えていました。知らないことが書かれているページを次へ次へとめくるのは、楽しい体験でした。そして、それでも映画はとてもおもしろかったのです。

ゆえに、映画は良作ですが、読書を通じてご自身で世界を思い描きながら読むことのほうが、何ものにも代えがたい価値のあることだと今は信じています。私はこの体験を通して、日々の暮らしの中で視覚から得られる情報に頼りすぎていることに気がつきました。それは人間の発達や進歩ではなく、ある種の不精ではないかと思うのです。

もしも原作より先に映画を観た場合、登場人物を想像して全く俳優の顔を思い出さないということはないでしょうし、風景を容易に思い浮かべることができるでしょう。ですが、それは自分の感覚を楽しむというよりは、映画の追体験と言えます。お気に入りの映画であれば、それはそれで楽しいものです。でもこれは、映画を観た後にいくらでもできることです。

もし、すでに映画を観てしまったかたがこの手引きを読んでくださっているのなら、映画の記憶をいったん奥にそっとしまい、原作を手にとってみてください。一度、他の物語の中へ行って戻ってきてから読むのもいいかもしれません。

心がまえ―気楽にはじめよう!

はじめから終わりまで順番に読んでもいいですし、読みにくさを感じたら先のページへ進んで戻ってくるとか、よくわからなくなったら前に戻ってもう一度読んでみるとか、趣味の読書ですから、そういうことは自由にやったらいいと思います。読書にルールなんてありませんからね。

もし、むずかしく感じたら、完全に理解しようという意気込みはいったん捨てましょう。わからなさもおもしろいものだととらえてみてはどうでしょうか。何度読んでもおもしろく、得るもののある本というのは得てしてそういうものです。

まずはじめに 〜ホビット、指輪、…シルマリル?

中つ国への入り口となるのは『ホビットの冒険』か『指輪物語』です。どちらも独立した物語として読めるので、興味のひかれるほうを選ぶといいです。

『ホビットの冒険』は、トールキンの子どもたちのために書かれた物語。児童書として書かれています。ドワーフに雇われて旅に出るホビットの物語です。日本語で読むなら、岩波書店から出ている『ホビットの冒険』が読みやすいでしょう。原書房の『ホビット ゆきてかえりし物語』もありますが、こちらは注釈版で初読時にはオーバースペックです。とはいえ物語として読むこともできるので、書店や図書館で文章を読み比べて、馴染みやすいほうを選んでください。こちらを読む場合、注釈はいったん無視して読んで大丈夫。

『指輪物語』は、日本語訳は今のところ瀬田貞二さんが翻訳されているものしかありません。旧版と新版がありますが、新板は旧版をベースにブラッシュアップされていますので、新訳というのはありません。

十分扱いに注意したほうがいいのは、第一巻「旅の仲間」上巻の終わりに収録されている「訳者あとがき」です。あとがきがここに差しこまれているのがよくないんですが、クライマックスの顛末が書かれています。

『指輪物語』は、ぜひ「追補編」まで読みましょう。『指輪物語』の背景を理解するのに役立ちます。

この二冊のおさらいがしたいと思ったら『終わらざりし物語』下巻の「エレボールの遠征」、『シルマリルの物語』収録の「力の指輪と第三紀のこと」が役に立つでしょう。前者は『ホビットの冒険』を、後者は『指輪物語』を別の角度から語っています。物語を俯瞰して見ることができるようになれば、解釈が深まるでしょう。

読書に慣れているかたは、はじめに『シルマリルの物語』を手にとってみるのもいいかもしれません。この物語はトールキンの創作の原点で、中つ国の(実は中つ国だけではない)天地創造も含まれる、美しい物語群です。本文に目を通してご判断ください。

書籍について

第三紀の出来事をもっと、あるいは、気の遠くなるくらい過去へ

トールキンの物語をもっと知りたいとお思いになったら、ぜひ読んで欲しい作品が二つあります。

『指輪物語』で語られた、指輪戦争の物語をもっとよく理解したいとお思いでしたら、『終わらざりし物語』を上巻からではなく、下巻を読むのも一手です。

『終わらざりし物語』はトールキン亡き後、ご子息クリストファが膨大な遺稿の中から興味深いものを集めて本にまとめました。これまでの本と少しちがい、唐突に終わったり、似たような話が複数あったり、つじつまがあわなかったりします。トールキンの遺稿を読むにあたっては、彼の最終的な意図ではなかった可能性も念頭に入れておくといいです。

ビルボ・バギンズとフロド・バギンズの冒険があった期間は、通算しても百年に満たないのですが、トールキンが作った世界の歴史ははるかに長いです。過去に神々とエルフ、人間の長い物語があります。世界の成り立ちを知ろうと思ったら先に『シルマリルの物語』へ進んでください。

『終わらざりし物語』下巻を先に読んだ場合でも、その後は『シルマリルの物語』へうつりましょう。この本は読了まで時間がかかるかもしれませんが、この物語群を知っているとトールキンの物語の色彩はもっと彩りがゆたかになっていくので、どうか気長に向き合ってみてください。『終わらざりし物語』上巻は、『シルマリルの物語』のあとに読むと理解しやすいでしょう。

書籍について

映像を楽しむ

『ホビットの冒険』と『指輪物語』、原作は興味のある方から読むとよいとおすすめしました。『ホビット』と『ロード・オブ・ザ・リング』、映画ももちろん同じく、興味のあるほうから観るといいです。好きな役者が出ているとか、雰囲気が好きとか、なんとなく惹かれるとか、そういう感覚も大切ですね。

映画を時系列で観賞する

  1. ホビット/思いがけない冒険
  2. ホビット/竜に奪われた王国
  3. ホビット/五軍の合戦
  4. ロード・オブ・ザ・リング(旅の仲間)
  5. ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔
  6. ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還

映画を制作された順に観賞する

  1. ロード・オブ・ザ・リング(旅の仲間)
  2. ロード・オブ・ザ・リング/二つの塔
  3. ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還
  4. ホビット/思いがけない冒険
  5. ホビット/竜に奪われた王国
  6. ホビット/五軍の合戦

『ホビット』、『ロード・オブ・ザ・リング』ともに原作を読了していれば、どちらからでも、好きな順番でご覧になるといいと思います。

ところで、時系列で観た方が理解しやすいだろうけど、製作された順に観るのもありなの?と思うかもしれません。けれど、「王の帰還」の後、10年近くは前日譚の映画はありませんでしたから、制作順に見ても大丈夫だと、個人的には思います。先に作られた『ロード・オブ・ザ・リング』を観ているからこそ理解できる演出もあります。

コレクターズ・エディションとスペシャル・エクステンデッド・エディション

『ホビット』三部作にも、『ロード・オブ・ザ・リング』三部作にも、コレクターズ・エディションとエクステンデッド・エディションがあります(『ロード・オブ・ザ・リング』では「スペシャル・エクステンデッド・エディション」と言います)。

コレクターズ・エディションは、劇場公開版です。

エクステンデッド・エディションは、その劇場公開版を追加シーンを入れるために再編集したバージョンです。

『ロード・オブ・ザ・リング』三部作は、文庫本にして10冊になるような長編ですから、コレクターズ・エディションでは時間が足りなかったと思います。それでも、「王の帰還」の劇場での上映時間は3時間を超えるのですが……。スペシャル・エクステンデッド・エディションを選ぶことをおすすめします。これは、配信版がないので、DVDやBlu-rayを入手する必要があるのですが、レンタルもあります。

『ホビット』三部作は最初、二部構成で作っていたものを、途中から三部構成に変更したんだそうです。ですから、こちらはコレクターズ・エディションを見ると、よくまとまっているように思います。二度目の鑑賞時にエクステンデッド・エディションを観るのもいいかもしれません。

おわりに

ここまでたどり着くにはけっこうな時間が必要になるでしょう。でも、実はトールキンの世界の大海原ではほんの入り口。もう一度最初から読むのもよし、トールキンの他の著作を読むのもよし、研究や解説された本を読んでみるのもよし、サウンドトラックに耳を傾けるのもまた楽しい時間です。ゲームもいくつか出ているし、ファンの人と議論してみるとか、楽しみかたはたくさんあります。思い思いに楽しませてくれるのもトールキン世界の魅力です。

よくある質問

『ロード・オブ・ザ・リング』と『ホビット』、どちらを先に観るべき?

Twitter でアンケートをとってみました。505人のかたに回答していただきました。ご協力ありがとうございました! 結果はご覧の通り。『ロード・オブ・ザ・リング』を先に観るといいとアドバイスする人が圧倒的に多い結果となりました。ですが、これは絶対ではないです。「映像を楽しむ」で書いた通り、より興味のあるほうから順番にご覧になるのが一番いいと思います。決めかねているかたの参考になればと思い、アンケートにご協力いただきました。楽しんでいただけたら何よりです!