「ホビット:思いがけない冒険」のサウンドトラック チャプター1

「ロード・オブ・ザ・リング」のサントラ解説書「The Music of the Lord of the Rings Films」のホビット版「The Music of the Hobbit Films」は、出版が未定ということを知りました。映画公開中からこの書籍を読むことを楽しみに待っている身としては残念なニュースです。まだ希望がなくなったわけではありませんが。

映画の中でホビットからロード・オブ・ザ・リングまでの物語の繋がりが演出されるシーンが多々ありましたが、音楽もそうです。ロード・オブ・ザ・リングと同じ音楽が使用されるだけでなく、ロード・オブ・ザ・リングでは細切れのようなモチーフだったものが、ホビットでテーマに発展したものもありました。

音楽として聞くだけでも美しいサウンドトラックですが、制作のコンセプトを知ることは物語の理解を深めたり、新しい解釈に出会う機会になります。ホビットで初登場した美しい楽曲が多くあります。ハワード・ショア氏の思うところを知るには「The Music of the Hobbit Films」が出版されるのが一番ですが、音楽の知識が少ないなりに、できる範囲でサウンドトラックの考察に取り組んでみる所存です。

思いがけない冒険 チャプター1


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*LOTRから参照されているもの
**勝手に命名したもの

The House of Durin

「The House of Durin(ドゥリンの一族)」[1]のテーマで幕が開けます。ですが、ここの音の形は通常の「The House of Durin」とは微妙に音の形が異なり、「ロード・オブ・ザ・リング」でも主要なモチーフの一つとなっていた「Weakness and Redemption(弱さと救済)」のテーマと融合しているのではないかと思います。Weakness〜は、ゴクリのスメアゴルの側面を表す「The Pity of Gollum」や「Rivendell(裂け谷)」のアルペジオにも含まれています。また、ゴンドールの烽火リレーのシーンにも取り入れられるなど、多く使用されており、「繰り返し現れる”Failure(失敗、衰退)”と”Reconciliation(調和)”のコンセプト」[2]です。

通常の「The House of Durin」[3]はこうです。

Pensive Setting

「The Hobbit」のタイトルが現れると、聞き慣れたホビットの「Pensive Setting」がやわらかな音色で流れはじめ、ビルボからフロドへのメッセージが語られます。

Gandalf’s Farewells

その次に続くのは「Gandalf’s Farewells」。ロード・オブ・ザ・リングでは灰色港でのシーンで使用されています。このテーマは、ガンダルフがカザド=ドゥムの橋から落ちた後、悲しむ仲間たちの映像とともに登場します。そして灰色港も中つ国の通常の種族とは異なる道をとる者たちを見送るシーンで流れます。ホビットのプロローグでのビルボも、すでにホビット庄を去る覚悟を決めており、異なる道を取る者ととらえることもできます。

ビルボの語りがエレボールへ及ぶ直前、地図とともに指輪の旅の仲間のテーマの最初の5音のモチーフがゆったりと流れます。「The Fellowship Theme」は「決戦のゆくえ」の終盤、スランドゥイルがレゴラスにアラゴルンの存在を示唆する時に流れますが、他には使われていません。ビルボの旅がなければフロドの旅もなく、旅の仲間が結成されることもありませんでした。

Erebor

谷間の町の音楽は判断できる要素がありません。

谷間の町からエレボールの大門へと映像が移り変わると流れるのは主要なドワーフのテーマのうちの1つ「Erebor(エレボール)」[4][5]が二度繰り返されます。

Thorin / Erebor

その後に「Thorin / Erebor(トーリン/エレボール)」[6]へと繋がり、エレボールの栄華をビルボは詳細に語ります。

Arkenstone

採鉱の映像の終わりにアーケン石が見つかります。アーケン石のテーマは第一部ではここだけ。第二部の後半から第三部の中盤にかけて繰り返し登場するようになります。

Woodland Realm

ここでエルフのスランドゥイルが登場します。「ロード・オブ・ザ・リング」では闇の森は舞台になりませんでしたので、ホビットで新しく登場した音楽です。高音の女声コーラスを伴うことが多いのが特徴です。

最初にこのテーマが流れた後、低いうねるような男声コーラスが入ります。そしてその後にすぐWoodland Realmに戻ります。このコントラストはまさにドワーフとエルフのちがいを表すものだと思いますが、男声コーラスに関しては情報がありません。

Smaug’s Basic Form

スランドゥイルがエレボールの朝見の間を去り、不穏なドラムの音(ティンパニでしょうか?)が流れた後は、しばらく音楽はありません。そしてトーリンがエレボール内に向かってスマウグの襲来を知らせると、突然激しくスマウグの基本形となる音楽が流れます。これはまさにスマウグの急襲を演出していると言えます。

谷間の町を襲撃している間の音楽には悲劇を歌うかのような女声コーラスが入っているのですが、どういったモチーフなのかは判断できません。

Erebor

トーリンがドワーフ軍を率いてエレボールの大門をめぐる攻防で「Erebor」のテーマが再登場します。

Smaug’s Basic Form

ですが、すぐにスマウグに圧倒されることになり、もう一度スマウグの基本形となる「Basic Form」が流れます。

Sufferings of the Dwarves

これは思いがけない冒険の中で何度か登場するモチーフですが、テーマとして扱われている情報を見つけたことはありません。ドワーフの苦境や危機を表すテーマではないかと思い、勝手にタイトルをつけました。アルペジオを伴うのが特徴でしょうか。最初は大門からドワーフたちが逃げるシーンで使用され、スランドゥイルに一度カットが移った時にはなくなりますが、ドワーフたちが放浪をはじめるともう一度登場します。

Flaming Red Hair

画面は鮮烈に平和なホビット庄へと移り、夏祭りでのガンダルフとビルボの交流を描きます。


ここまでがチャプター1。ドワーフの主要な3つのテーマ「Erebor」「Erebor/Thorin」「The House of Durin」を軸に後世されていることがわかります。そして昔なつかしいロード・オブ・ザ・リングのテーマも多様され、旧知の中つ国の世界で別の、もう一つの物語が展開されていく様子を目の当たりにすることとなります。

ロード・オブ・ザ・リングやホビットの音楽にご興味がありましたら「The Music of the Lord of the Rings Films」をおすすめいたします。

この記事はTolkien Writing Day #3 に参加しました。