「さびし野」の版ごとの相違点

「ザ・ロード・オブ・ザ・リングス オンライン」は、中つ国を自由に歩き回れることが魅力のひとつだ、という話をプレイヤーのかたと話していました。プレイを始めてチュートリアルをクリアしてホビット庄に降り立った時、目の前に開けた景色に感動したものです。その後プレイを続けてさらに感動したのは、トールキンが詳細に描かなかったこと、もしくは空白になっている部分にゲームオリジナルの解釈で設定が追加されていることでした。その中で「なるほど、こう解釈されるのか」と思ったのが瀬田貞二氏の翻訳では「さびし野」と呼ばれる “Lone-Lands”です。

「さびし野」の大部分は、第二紀の終わりから第三紀2000年頃までアルノール、もしくはアルノールが分裂してできたルダウアという国がありました。いずれもドゥネダインの国ですが、後にルダウアは山岳人やアングマールに支配されるようになります。この設定は「指輪物語」執筆後に追加されたものですね。「さびし野」の有名スポットと言えば風見が丘、シンダリンでアモン・スールと呼ばれる見張りの要塞です。かつて、この領有権を争ってルダウア、カルドラン、アルセダインが争いました。この3国は風見が丘の周辺が境になってわかれています。

Weather Top & Naerost from LotRO
LotROより。風見が丘西側の東街道から、風見が丘(画面左)とゲームオリジナルのNaerostの塔が見えます。

エレボール遠征の際にビルボはこの土地の感想を残しています。「塔が点在している」「よい塔には見えない」という趣旨の2点です。トールキンは「指輪物語」執筆後に「ホビットの冒険」の原稿を前者とつじつまがあうように書き直しているのは、彼の完璧主義が見え隠れする逸話としてファンの間では有名です。

この、さびし野に建つ塔とは何なのか、持っている限りの版の原稿を探してきて、第三版以外は確認がとれました。英語、日本語が入り乱れていますが…。

初版と第2版

第2版の原文テキストがないのですが、見比べて、また、”The Annotated Hobbit”(注釈版ホビット)でも1937年と第3版になった1966年の年号が中心なので、初版と第2版は同じなのではないかと思います。こちらのテキストは「いい目的で建てられたように見えない」ということですね。

初版

But after a time they came to places where people spoke strangely, and sang songs Bilbo had never heard before. Inns were rare and not good,the roads were worse, and there were hills in the distance rising higher and higher. There were castles on some of the hills, and many looked as if they had not been built for any good purpose.

第2版

けれどもやがて、一同は、人々がわからない言葉をしゃべり、ビルボの聴いたことがない歌をうたう土地へさしかかりました。宿屋はろくにありませんし、あってもひどいところで、道もずっと悪くなりました。そして遠くの山々がだんだん高くなってきました。山の上に城があるところがありますが、そんな城はいい目的で建てられたように見えませんでした。

第4版

「指輪物語」がリリースされた後の第四版では、”Lone-Lands”という地名が出てくるようになります。さらに”wicked people” 「よこしまな人々」と明記されており、イメージを以前よりも悪いものにするために変更したことが伺えます。注釈版(原書)でもテキストの変更は指摘されています。

Now they had gone on far into the Lone-Lands, where there were no people left, no inns, and the roads grew steadily worse. Not far ahead were dreary hills, rising higher and higher, dark with trees. On some of them were old castles with an evil look, as if they had been built by wicked people.

さて一行は、いまやこのような土地をあとにして、<わびしい国>の奥へ奥へと分け入ってゆきました。ここにはもはや人影がなく、宿屋もなければ、進むにしたがって道はいよいよ悪くなるばかりです。そうして、目の前には、もの寂しい丘陵がせまってきました。奥のほうがいやましに険しくそびえ、うっそうと樹がしげっています。山のいくつかには、いかにも凶悪そうな古城がそびえたっています。よこしまな人々がこしらえたかのようです。

Ost Cyrn from LotRO
Ost Cyrn from LotRO
Ost Guruth from LotRO
Ost Guruth from LotRO

LotROでは、これらの点を踏まえてさびし野が形成されています。建物のデザインを見るにアルノール、もしくはルダウアとしてさびし野にドゥネダインが住んでいた時に作られた建物が、争いや襲撃などによって毀たれた設定、と推測しています。これは第四版以降の「いかにも凶悪そうな古城」、「よこしまな人々がこしらえたかのよう」という記述と合致します。