The Study of Bag End

エルフの死と転生のこと ーグロールフィンデルの例

疑問と混乱

ある日、下記のようなことを疑問に思いました。

これをつぶやいた時の私は、エルフの死について知っていることと思い込みとで混乱していました。

「エルフの死」は私の手に余るテーマですが、今回はその混乱をといてこれまで知っていること、知り得たことを整理しておこうと思います。ただしここに書いてあることがエルフの死に関する情報のすべてでないこと、未邦訳の草稿集「中つ国の歴史(The History of Middle-earth)」シリーズを読んでいるため最終稿ではなくひとつの可能性であったということを念頭にお読みください。

エルフの死と人間の死について

中つ国のエルフ族は不死であるということは、アルダの中の基礎となる重要な設定の一つです。それは指輪物語でもシルマリルの物語でも変わることはありません。彼らには寿命の限りがないにも関わらず死ぬことがあります。それは治癒できない傷を負うか、生きることに倦み疲れてしまった場合です。死んだエルフの霊魂はマンドスの館に集められます。1

しかし人間はそうではなく、有限の命しか持ちません。エダインやヌーメノール人であれ東夷であれ、寿命の長短はあれど、エルフと同じく体を損なうことで死にますが、いずれにしろ老衰し死に至ります。いくつかの例外を除いては、エルフと違い、人間の霊魂は死んだ後にどこへ行くかはヴァラールにさえ隠されています。

「本当に死ぬ」とは何か

人間の息子たちは本当に死んで、この世を去る。(中略)死はかれらの宿命であり、イルーヴァタールからの賜り物である。

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エルダリエの中でただかの女〔ルーシエン〕のみが、本当に死に、遠い昔にこの世を去ったのである。

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「本当に死ぬ」という言葉に惑わされました。

「本当に死ぬ」死があるということは「本当には死なない」死があるということ、とも受け取れます。「本当に死ぬ」のが人間、「本当には死なない」のがエルフということでしょうか。これに加えて聞き知った話によれば「ダゴール・ダゴラス」では本当に死んだとされる人物が再来する草稿が存在することも頭の片隅にあったために、エルフの死とは何なのかがよくわからなくなってしまったんですよね。

戻ってきたエルフの話

シルマリルの物語にはマンドスの館から戻るという話が少しだけあります。

齢も彼ら〔エルフたち〕の力を減じることはなく、死にかけると、かれらはヴァリノールのマンドスの館に集められる。いつかはそこから戻ることもできるのである。

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ですが、実際にそうなったエルフの詳細は邦訳済みの書籍にはないと思います

The Peoples of Middle-earth(未邦訳)にある「Last Writings」の中にエルフの転生についての話がある情報を教えていただきました。これはグロールフィンデルの話で二種類の草稿があり、それぞれ「グロールフィンデルⅠ」と「グロールフィンデルⅡ」とタイトルがつけられています。部分的に内容は重複していますが「グロールフィンデルⅡ」の方がより詳細です。驚くことではありませんが、両方とも未完です。

グロールフィンデルの名前は第一紀のゴンドリンにも、第三紀の裂け谷にも見つけることができます。しかしながら第一紀のグロールフィンデルはゴンドリンの陥落の折にバルログと相討ちとなり、命を落としていました。5しかしながら、ゴンドリンのグロールフィンデルと裂け谷のグロールフィンデルは同一人物であることを前提に原稿は書かれています。

裂け谷のグロールフィンデルは指輪物語に登場します。ピーター・ジャクソンの映画版ではアルウェンに、ラルフ・バクシのアニメ版ではレゴラスに替わられた映像化では不遇のグロールフィンデル(そういえば最近、オデッセイ(映画)に名前だけ登場しましたね)。ナズグルの追跡から指輪所持者一行を捜索するために裂け谷から送り出されたひとりです。6Last Writings」を読んでグロールフィンデルが現れないことをより残念に思いました。

なぜかと言うと、グロールフィンデルがなぜあんなにも「特別な力と神聖な空気を身にまとっているのか〔筆者訳〕」について、説明がなされているからです。7

第三紀1975年のフォルノストの合戦の際に、裂け谷の軍勢を引き連れ出陣し、ナズグルの首領であるアングマールの魔王を追い払ったのは彼でした。8さらに前述の指輪所持者援護の際には、火と水に力を借りたにしろ幽鬼をあわてふためかせ、結局は大水に流されてきました。9グロールフィンデルほどの力を持ったエルフは、裂け谷にもわずかいません。10

グロールフィンデルが特別だった理由

(中略)世界の命が尽きるまで、エルフは不死として運命づけられている。治癒できないほどの身体の損傷と、不自然でかつ痛ましいことである魂の肉体からの離脱によって彼らは死ぬ。それゆえ、唯一なる神から指令されたヴァラールの義務は、彼らが望んだ場合に彼らの肉体を持つ命を修復することであった。

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ここで「修復」と訳した原語は「restore」でこれには「元に戻す」「返還する」「復帰させる」などの意味があり12、どの単語を選ぶかは悩みどころでした。ともかくエルフはヴァラールによってレストアされて肉体のある命を取り戻すんですね。その循環を決めたのはイルーヴァタールということです。

ここまではどんなエルフにも共通して言えることですが、このテキストの後に続くのは罪深い方々が対象の記述。勝手な想像ですが、悔いる機会なく逝ったフェアノールや彼の息子たちの何人かが該当しそうなので紹介します。

生きている間に他人に対して悪意を抱いたり、邪悪な行為を行って悔い改めることを拒否したフェア〔魂〕は、マンウェによってこの修復を先延ばしにすることができた。

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グロールフィンデルはこれに該当せず、罪を償ったあとヴァラールによって修復され、肉体を取り戻しました。グロールフィンデルが修復の対象とされた重要な事柄は、ゴンドリンの陥落の際にトゥオルやイドリルとその子が避難することを、自己犠牲をともなってまで達成したことでした。トゥオルの息子エアレンディルから中つ国が救われるきっかけが生まれ、エアレンディルの息子たちはエルロンドにエルロスでした。

グロールフィンデルの強さはどれくらい強いのかというと、これくらいだそう。

彼は自身の自己犠牲によって精神的な力が強化されたために、マイアールとほぼ等しくなっていました。

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本の中ではこれを明確に転生と書いているわけではないのでそう呼ぶのが正しいのかはわかりません。しかしながら、第三紀の中つ国に再び現れたグロールフィンデルのとても力の強いこと。彼のような復活をとげていなければ、現れただけでナズグルが逃げるようなことはなかったのではないでしょうか。ブルイネンの浅瀬でのシーンは特に、アルウェンやレゴラスではなくグロールフィンデルであることに意味があるのだと思います。

彼がどのようにして復活を遂げたのかという説明のあとは、オローリンとヴァリノールですでに旧知の仲であったことや、中つ国へ帰還する時期や帰還する方法などの記述があり、こちらも興味深い内容です。「Last Writings」を読み進めて「5人の魔法使い」の章にはグロールフィンデルが彼らの一人なのは事実か?という興味深いメモ書きも、編者のクリストファー・トールキンによって紹介されています。

このことを1か月くらい読みながら考えて、エルフの死について考える機会になりました。基礎設定だけでなく柔軟に考えないといけないと思った次第です。

エルフの死についての草稿は他にもあるようで、そちらもいつか読んでみたいと思っています。エルフの死に関する知識がアップデートできた時にはまたブログにかけたらいいなと思っています。


この記事は2016年4月6日のTolkien Writing Dayに参加しました。

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